INTRODUCTION学生紹介

STUDENT INTRODUCTION

プログラム1年次(博士前期課程海洋生命資源科学専攻1年)

江藤 曉 ETO AKIRA

専攻分野:生物資源学

指導教員:横田 賢史

メンター:吉田 毅郎(海洋環境科学部門)

江藤 曉

「好き」と「興味」がそのまま自分の研究になった。
AIで応用研究を簡易化するための下地作りに挑戦

2022.10.12

深海魚の食性を分類学と生態学で研究、自分の「好き」「興味」がそのまま研究に

魚、特に深海魚が好きで、深海魚について学ぼうと東京海洋大学に入学しました。最初に興味を持ったのは分類学。しかし、博物館の標本整理を手伝いながら分類学の勉強をするなかで、次第に生態学も気になってきました。

自分の研究テーマを決めるとき、当初は駿河湾に生息する深海魚の分類学を研究しようと思いました。しかし調べていくうちに、駿河湾では分類的な研究が進んでいるのに対し、他のエリアに比べ生態的な研究がそれほど進んでいないことに気付きました。そこで、駿河湾で深海魚の生態学を研究したら面白いのではないかと考え、大学院では駿河湾に生息する深海魚の食性の調査をしています。

深海魚が何を食べているのかを調べるのは生態学ですが、胃の中の生物の種類を調べるのは分類学に基づいています。分類学の楽しい部分と生態学の楽しい部分を組み合わせているのが僕の研究です。

「時間がかかる食性の調査をAIで自動化できないか」とひらめいた

魚の胃から内容物を取り出して何を食べているかを調べるのは、普通の魚やカニを見るのとは違います。消化され形が変わっているので「これは何だろう」とわからないことが多いのです。さらに、自分が詳しい分野と詳しくない分野では解像度が変わります。魚はわかるけれどエビは知らないというように差が出てしまう。また、たくさん食べている魚だと1匹の調査に1~2時間ほどかかることもあります。意味のある研究をするためには何百体も調査しなければいけないのですが、これでは時間がかかりすぎる。そこで「食性の調査をAIで自動化できないか」とひらめきました。それが、卓越大学院の研究になっています。

僕は生物系の分野にいますが、プログラミングやAI学習に興味があり、それらを趣味として独学で学んでいました。卓越大学院プログラムに参加した理由は、AIを体系的に学べるからです。卓越大学院プログラムでは、専門の教授から一通りの基礎を教えてもらえますし、研究で使う部分を質問したりサポートを受けたりもできます。これまでは独学だったので知識に偏りがありましたが、卓越大学院プログラムに参加したことで、広く学べています。期待通りですね。

時間がかかる今の作業は、将来的に意味を持つはず

si_photo_eto02.jpg大学が品川にあるため、通勤ラッシュの時間をずらして登校しています。そのため、だいたい昼頃学校に到着し、それから研究を始めて夜20時くらいに帰宅する毎日です。僕の研究は2つ。深海魚の食性を調べる大学院の研究と、それをAIで自動化するための卓越大学院プログラムの研究なので、両方を平行して行っています。研究の材料となる深海魚は、定期的に駿河湾の漁師さんから提供していただき大学で冷凍保存しているため、まず魚を解凍するところからスタート。魚の内容物を調べる傍ら、AIを作る上で必要となるデータを収集するため、顕微鏡の写真を撮影し餌が写っている部分に印をつけます。AIでは物体検出という技術を使って餌の検出をしようと考えているのですが、そのためにはたくさんの画像が必要で、画像を集める作業にかなり時間がかかります。自動化するまでは大変ですが、自動化できればこれまでの半分くらいの時間で作業ができるようになるはず。今後を考えると意味がある作業です。

このAIの研究は応用研究をスムーズに行うための下地作りという立ち位置になります。今は食性研究をしていますが、最終的には生態系がどうなっているかを知りたいですし、シミュレーションテストのような応用研究にも手を伸ばしたい。自分のデータを使って検証ができればと考えています。この先もさまざまな研究を行いたいです。

大好きな深海魚の世界にどっぷり浸れる毎日、AIもプラスして研究を進めていく

深海魚の食性はあまり知られていません。ですから研究で魚の胃の内容物を見ていると「こんなものを食べているのか」という驚きだけでなく、「こんな生物もいるんだ」「この魚は肉食だったのか」という発見の連続。宝探しのような面白さがあります。

大学に入学する前は「自分は深海魚が好きだけれど、同じものが好きな人には滅多に会えないだろう」と考えていました。しかし入学してみると深海魚同好会があって、同好会の部室には図鑑でしか見たことがないような深海魚の標本がたくさんありました。幼少期本の中の存在でしかなかった深海魚が手の届くところに並べられていて、夢が叶ったと鮮やかに自覚しました。もちろん同好会にいるのは深海魚が好きな人たち。同じものが好きなたくさんの仲間と出会えてうれしかったです。

好きなものを学問として研究し、さらに興味があって独学で取り組んでいたAIを専門家から教えてもらって研究に生かせる。充実した日々を過ごしていますし、完成したAIを使って研究を進める未来も楽しみです。