REPORT留学生リポート

OQEANOUS-IJP 体験記(上海海洋大学 H31.2-R1.6)

IJP 2019.10.18

上海海洋大学 OQEANOUS IJP 体験記
東京海洋大学 食機能保全科学専攻 修士1年 津村知樹

目次

◆基本情報編

1.はじめに

2.今回の留学でしたこと

3.キャンパスの利便性と交通事情

4.気候と大気汚染問題

5.学生寮

6.学食

7.授業紹介、部活動

8.本当に無料で留学できたのか

◆体験談編

9.便利グッズ、アプリ

10.留学中の困った出来事あれこれ

11.住めば都の上海海洋大

★おことわり

この資料の全範囲について無断で転載、複製、引用することを禁止します。

これはオリジナル資料の内容の一部を改変、削除したウェブ版資料です。

★  長 い 。

留学のイメージをできるだけつかみたい学生向けに、非常に詳しく書いています。

さらっと読みたい人は他の人の体験記をチェックしてみてください!

1.はじめに

 この資料では、私が上海で体験したことを、良いことも悪いこともできるだけ詳しく書いた。かなり長い体験記ではあるが、OQEANOUSへの参加を検討している人はこの資料を通して現地で何ができるのか、どんな生活をするのかイメージしてもらえたら幸いである。なお、私の留学基本情報は表1の通りだ。

表1 留学基本情報

留学期間

平成31年2月28日 ~ 令和元年6月28日

学年

学部4年末 ~ 修士1年前期

現地所属専攻

上海海洋大学 食品学院 

2.今回の留学でしたこと

 長期留学の壁として、留年リスク、留学費用が挙げられる。一般的な交換留学では現地で授業を履修しても必ずしも卒業に必要な単位に算入できるとは限らないし、学校によっては寮費だけで奨学金を使い切ってしまうということもありうる。しかし、OQEANOUSで上海海洋大に行けば必ず卒業に必要な単位を取得でき、しかも実質無料で留学できるということで躊躇せず参加した。

私が所属する食品物性学研究室では、上海海洋大学と共同研究をしている。今回の留学では、上海海洋大学で専門科目を履修して卒業に必要な単位を取得しつつ、この共同研究に関連する課題に取り組んだ。これは研究に必要な特殊サンプルを上海海洋大の国家級食品製造実習センターで製造しようというもので、4か月程度で行うことができる。また、上海海洋大には留学生向けの部活があるということで、私はドラゴンボートに初挑戦し、大会にも出場した。

3.キャンパスの利便性と交通事情

上海海洋大のキャンパスはとにかく広い。男子寮と講義棟(1号教学楼)までは1km、駅に行くバス停までは1.3㎞離れている。当時は学内には購買が一切なく、男子寮から1.2km離れたスーパーが最寄りの店であったが、2019年8月現在、男子寮横の第3食堂にローソンの建設が進められている。

上海海洋大から市街地までは80kmほど離れており、これは越中島・品川から奥多摩までの距離とほとんど変わらない。大学は駅からも離れており、中心部に行くには下の例のように少なくとも2時間以上はかかる。なお、上海の路線バスは設備、乗り方共に日本とほぼ同じである(図1)。メトロはホームに入るためにX線検査が必要だ。座席はプラスチック製で長時間乗車は辛い(図2)。

<<例 上海市中心部の中山公園まで行く場合>>

男子学生寮

  ↓ 1.3km 徒歩 13分

上元路共享区停留所

  ↓ 6.8km 浦東公交バス 1043系統 滴水湖駅行 始発 22分 (10~15分毎運転)

滴水湖

  ↓ 58.9km 上海メトロ16号線 普通 龍陽路行 始発 58分 (普通5~8分毎、快速2時間毎)

龍陽路

  ↓ 15.4km 上海メトロ2号線 徐涇東方面行 28分 (3~4分毎)

中山公園

運賃バス1元(16円)、メトロ10元(160円)、計176円。ICカードでバスとメトロを乗り継ぐと1元割引。

図1.png

4.気候と大気汚染問題

●上海の気候

2~3月 雨がやや多い。高湿度のため朝は霧が出る。洗濯物が乾かない。

4~5月 比較的晴れが多い。「江南の春」と呼ばれる穏やかな気候。

6~7月 梅雨のシーズン。梅雨前線が長期にわたり上海市上空に居座る。雷雨も多い。

●大気汚染

前提として、上海市自体は極めて環境対策が進んでいる(例えば、路線バスはほとんど電気自動車である)。問題となるのは、北部の地方の汚染空気が上海まで流れてくることだ。図3(省略、下記URL参考)は5月末のtenki.jpのPM2.5分布図である(中国からもアクセス可能)。上海海洋大のエリアは海に面し、大気が拡散しやすいので、市街地と比べかなり空気がきれいである。夏季の汚染レベルは東京都心と同程度と思って構わない。一方で市街地は夏季も汚染空気に包まれることが多い。冬季は図の「赤」の範囲が広がり、大学も汚染大気に包まれる場合がある。なお、tenki.jpの大気汚染レベルの基準は厳しめで、わりとすぐに「赤」になってしまう。そのようなときは、図4(省略、下記URL参考)「上海市生態環境局」の公式ページを見ると、市街地の汚染レベルが分かる。3月中は、最悪で市街が「重度汚染」になることがあった。私が市街に出かけた日で最も汚染がひどかったのは「中度汚染」の日で、この時は界が1㎞未満、のどのイガイガ感、目がチカチカするような感じがした。滞在中は毎日大気汚染情報をチェックしよう。また、過去に喘息の症状があった人は渡航前に必ずかかりつけ医に相談を。

※参考URL 日本気象協会PM2.5分布予測  https://tenki.jp/pm25/ 

※参考URL 上海市生態環境局トップページ   http://sthj.sh.gov.cn/

※参考URL 上海空気質量実時発布系統    http://219.233.250.38/aqi/Home/Index

                             

5.学生寮

上海海洋大学の留学生寮は、男女共用の高級な寮(通称"Hotel"、研究生交流与培訓中心)と、安い男女別の寮(第13小区男子寮、第16小区女子寮)に別れており、IJP、DDP参加者は安い方の寮に割り当てられる。Hotelのマネージャーは英語可だが、安い寮の管理はバリバリの上海オバちゃんで、もちろん英語は一切通じない。同じ安い寮でも、女子寮はかなり新しい建物だが、男子寮は上海海洋大の寮のなかで最も古い建物だそうだ。男子寮はボイラーの故障、断水、停電トラブルがときどき起きた。男子寮は図5~7の通りで、2人部屋4つで1ユニットである。部屋は土足式のため、サンダルは必須。避難時の経路が全く考えられていない設計なので、3階以上の部屋が割り当てられた時は自分の体重を支えられる丈夫なロープを部屋に備えておこう。また、5月以降は蚊が大量発生する。網戸がないので、蚊帳があると快適だろう。ちなみに、寮内では湯沸かし器、調理器具、ドライヤーなどの高出力家電の使用が禁止されている。管理者はそれらを見つけ次第没収するとの掲示あり。正面玄関わきに共用のドライヤー、洗濯機、給湯器が備え付けられている。共同キッチンもあるが、食器棚、冷蔵庫の中ともに腐海と化し瘴気が漂う。なお、ルームメイトの組み合わせは超テキト―で、宗教、文化がかなり違う人と一緒になることがある。また、突然部屋の移動命令が出たり、翌日に命令が取り消されたりと、寮の管理体制はかなり不安を感じさせた。私のルームメイトがやってき時も事前の予告なく突然で、ある日帰宅したら知らない奴が部屋にいた、という漫画のような展開であった(詳しくは11章)。このような体制のため、自分が急遽部屋替えになることもあり得るし、ルームメイトが突然入れ替わることも十分ありうる。また、建物内は禁煙、23時以降の音出しは禁止だが、残念ながら現状としてこれらのルールはほとんど守られていない。

図5-7.png

6.学食

●第1食堂  (定食コーナー、洋菓子コーナー、スナックコーナー)

定食コーナーは作り置きのおかずを指でさして注文できる。中国人学生に人気だが、肉肉しく、油っぽいメニューが多い。

●第2食堂  (定食コーナー、ライブキッチン、ハラール食堂、アイスコーナー)

女子寮に最も近い。定食コーナーとハラールは指でさして注文、ライブキッチンは筆談で注文。ハラール食堂のおかずはエスニックな味付け。中国人学生に人気だが、油っぽいメニューが多い。恐らくハラール食堂の炊飯器だけ違うものなのだろう、他の食堂の飯はガチガチだが、ハラール食堂だけはもちもちしていて美味しい。

●第3食堂  (定食コーナーのみ)

男子寮に最も近い。中国人学生の評判が非常に悪い。しかし、魚、野菜系のあっさりおかずが充実していて日本人の食生活に最も近い定食を組める。空いているので私は最も好んで使っていた。

●学食は学生カードのみ利用可。学生カードへのチャージはアリペイか現金。現金チャージは第1、第3食堂、朝と昼のみ。食事例は図8の通り。

図8.png

7.授業紹介(シラバス)、部活動

図9.png

 図9は私の時間割である。上海海洋大は一コマ90分制で、間に5分の一斉休憩が入り、95分となる。現地大学院生は中国語で授業を履修しているため、留学生には留学生専用の科目設定がされている。そのため、基本的に少人数制授業となる。食品学院の場合は、1クラス5人程度で、授業は学生の理解度に合わせて進められた。分からない部分があれば授業をストップできるので、苦手な科目も履修してみると良い。

 留学生用の部活が授業のコマに合わせて設けられている。部活は龍舟(ドラゴンボート)、太極拳、カンフー、書道、絵画がある。活動時間は1限分、成績も評価されるため、形式は授業だが、実態は部活である。どの部活がどれくらいのレベルであるかは現地で問い合わせを。少なくとも、龍舟部はちょっとかじってみようかなという程度の気持ちの学生は歓迎されない。

 下には私が履修した授業、部活の情報をシラバス形式にまとめてある。なお、科目名は上海も東京も変更になっている可能性がある。

table.png

8.本当に無料で留学できたのか

表2 留学収支表

table1.png.jpg

 表2は留学中の収支表である。結論から言うと、支給された奨学金は留学に関係する諸費用を上回り、日本円で10万円相当の黒字となった。ただし、これは少し節約した結果である。節約レベルとしては、

●寮の冷暖房不使用、洗濯機は使わずに手洗い

●旅行は地下鉄で行ける範囲のみ

●ご飯は3食しっかり食べる、でも豪華にはしない。

したがって、贅沢な生活をしたいと思う人は赤字覚悟で渡航したほうが良いだろう。

表3 留学関係で補助されたお金

table3.jpg

表3は、今回の留学で補助、または支給していただいた費用である。IJPでは、総額44万円近い額が補助されたことになる。JASSO奨学金で中国に留学した場合の支給額は月々6万円で、しかも必ずしも取得した単位を卒業に必要な単位に算入できるとは限らないので、OQEANOUSはかなりのお買い得である。このプログラムにより大学院入学料以上のお金が返ってくると考えれば、もはやOQEANOUSに参加しない理由が考えられない。

9.便利グッズ・アプリ

 ここでは、留学生活をより快適にするグッズやアプリを紹介する。

※この章は、ウェブ版では非公開とします。内容を知りたい人は

OQEANOUSオフィスまでお問い合わせください!

10.留学中の困った出来事あれこれ

(1)留学生課でたらい回し!

 上海海洋大に来た留学生は必ず経験する「たらい回し」。東京海洋大のようにとりあえず留学生係に言えば係が他の部署と話をつけてくれる・・・なんていう甘いシステムは存在しない。大量の留学生を捌いている大学なので仕方のないことだ。現地の留学生課(国際交流学院)は表4のように部屋が部門ごとに完全に独立しており、部門同士での連携がうまくいっていない。何かがあってとりあえず205室に行くと、「ここじゃない。多分A室じゃない?」と言われて、A室に行くと「私は知らん」と言われることがしばしばあった。最終的にはオケアヌスコーディネーターに頼ることになるが、上海のコーディネーターは専任ではないのでいつでもすぐに対応してもらえるわけではない。研究室の友人や先輩留学生の手助けなしでは留学生活をのり切れなかった。

表4 部屋が部門ごとに完全に独立している留学生課(国際交流学院)

207室

主に新入留学生の手続き

205室

在学留学生の諸手続き

203室

主に履修登録関連

201室

主に奨学金関連

Hotelフロント

新入留学生の入寮関連

Hotel事務室

ベッド購入など

安い寮管理室

在学留学生の寮関連の諸手続き

別の場所

学生カードの金銭トラブル

(2)上海海洋大のwifiが遅い!

 レポート作成や論文検索に必要な研究室のインターネット。上海海洋大も東京海洋大と同様にwifiが提供されるのだが、ネット規制問題以前に、とにかく通信速度が遅かった。その速度はせいぜい100kbpsであった。日本でスマホが通信制限になった時に128kbpsとなることに注意してほしい。このwifiで論文のダウンロードが途中で中断してしまうことが度々あり、ストレスがたまった。SIMカードを大容量のものにし、デザリングでPCに接続すれば良かった。

(3)奨学金が2か月待ち!

 奨学金は毎月25日に振り込まれるので、2月28日に入国した私は3月25日に支給されるはずだったが、この間に学校と中国奨学金機構との間でシステムトラブルが生じ、3月末の支給が見送りに。結局、4月25日にまとめて支給された。受給までに約2か月待ちである。渡航時にはある程度の現金が必要だ。

(4)アプリが更新できずオダブツに!

 Yahooメール、クレジット会社のアプリが、留学途中から「このバージョンは使用できません、アップデートしてください」と表示されるようになった。しかし、アップデートボタンを押してもその先はGoogle Play Storeなので規制対象となり、接続が切断される。つまり中国にいる間は、アプリのバージョンアップがあるとそのアプリは使えなくなるのである。Androidの人は同じ現象を経験すると思うので注意。ただしこの問題については9章の便利グッズがあれば解決できる。

11.住めば都の上海海洋大

(1)食品学院の授業

 食品学院の専門科目は私、ジブチ人留学生2人、ジンバブエ人留学生1人の4人で受けた(図10、11)。授業の内容自体は東京とあまり変わりないのだが、授業を進めるごとにアフリカと東アジアで食品生産に対する考え方が全く異なっていることがわかり、面白さを感じた。食品工学の基礎は世界共通の数式から成り立っているが、その数式を使って何をどのように生産するかはその国の宗教や気候、地理、その他の文化によって全く異なってくる。日本から出て食品工学を勉強すると、様々な食文化の中に食品工学という学問が溶け込んでいることに気づくことができる。

図10-11.png

(2)寮生活

 入寮当初は2人部屋を1人で使っており、それはそれで快適であった。まもなくして岩手大の学生の部屋に一緒に住むよう引っ越し命令が出たが、翌日にそれが取り消され(Financial problemにより日本人同士で住めないとの理由)、結局1人で部屋を使っていた。入寮後3週間、ある日突然ルームメイトがやってきた。3つ年下のウズベキスタン人であった。しばらくの間はお互い困ることが多かった。彼は夜型で日付が変わっても電話したりゲームしていたので私が怒ることもあったし、逆に彼はイスラム教徒なので私が部屋の中で爪を切ったりすると宗教的タブーで怒られたこともある(日本人の多くは世界から見れば無宗教であり、共同生活をするならば厳格に戒律を守る人に合わせるべきである)。そこで、ハウスルールを作り、例えば私はアルコール(品質保持用に入っている食品が多い)や豚肉の持ち込みに気を付けたり、ラマダーン中は日中彼の前で飲食をしないように配慮した。しかし、習慣の違いというものはお互いの配慮、理解と慣れによって大した問題ではなくなる。ラマダーンの夜は彼の友人らが私の部屋に集まってきて宴を開き、私もそれに少しまじってお菓子をシェアしたこともあった。

 さて、寮の機能性の低さについてだが、まず飲み水がない問題は有料ウォーターサーバーを1台借りてシェアすることにした。また、2人ともお金を節約したいという方針が合致し、洗濯機は使わず手洗い、エアコンは使わないという生活をした。気温は東京と同じなので、3月前半はウィンドブレーカーを着て寝れば暖房は不要だし、夏は窓を開ければ何とかなる。ただし、部屋には網戸がなく、5月以降は蚊が容赦なく入ってくる。そこで、夜はシーツで顔から下をくるみ(掛け布団替わり)、洗濯用ネットを頭からかぶるという奇策で蚊をシャットアウトした。ただしこの方法は蚊に刺されないが洗濯ネットの周りに蚊が集まってきて非常にうるさい。もちろん蚊帳や蚊取り線香の購入など、もう少し文明的な対策を推奨する。

(3)ドラゴンボート部

 ドラゴンボート部はこの留学の中でも特に印象に残っている(図12~17)。私はそもそも上海海洋大に来るまでドラゴンボート自体を知らなかったが、たまたま現地のチューターがドラゴンボート部員だったこともあり、やってみようと思った。ドラゴンボートは中国を象徴する伝統競技であり、上海海洋大ドラゴンボート部は中国トップのチームだ。ここでドラゴンボートの練習をするということは、つまり箱根駅伝のトップ選手に走り方を教えてもらっているようなものだ。当然といえば当然だが、キャプテン(中国人の学部3年)の指導はなかなかに厳しいものであった。そもそも、漕ぎだすのに絶対的なパワーが必要だし、漕ぎ方一つにしてもコツがあってそう簡単に上達するものではなかった。

 ドラゴンボートメンバーはとにかく性格や思考が日頃の練習態度に現れていた。本気にならないとついていけない練習であるため、表面的に仲良くするフリなどできないのである。もともと遊び半分で来た人は早々に練習に来なくなったし、大会が近づき今年は入賞するのは厳しそうだという見通しが立ってくると、ちゃんと練習に来ている人とサボっている人で対立が起き、Wechatグループトークが炎上したこともあった。実力があるが結果主義である人は、大会で負けることが分かっているのに厳しい練習をすることが理解できず、辞めていった。逆に、最後まで残ったのは過程主義のメンバーであった。

 肝心の大会だが、大学からチームウェア、送迎バス、大量の差し入れも提供され、入賞は絶望的だがもはや後戻りできない雰囲気であった。上海市大学留学生龍舟大会、会場は華東理工大学。中国銀行がスポンサーとなり、選手は理工大の学食で食べたいものを好きなだけ無料で食べられるという大盤振る舞い。競技は200mなのでレースはほんの一瞬であった。結果は28チーム中16位。妥当と言われても仕方がない結果だった。しかし、決して手を抜いた結果ではなく、我々なりにできる限りのことをして出した結果であることは保証する。

 この部活では、まさかここまでいろいろな国の人と本音をぶつけ合うとは思わなかった。練習に来ないメンバーもいたのは事実だが、本音を出しあうというのは少なくともチームを良くしたいという気持ちがなければできないことである。一方でちゃんと部活に来ていたメンバーとの連帯感は強く、一緒に大学脇の運河(※汚い)で泳いだこともあったし、特に一番練習に取り組んでいた欧米の友人とは中国文化の授業をいつも一緒に受けて、授業が終わった後政治や宗教について語り合ったりもした。

ドラゴンボートは、たとえ一人一人の考え方が違っていても、とにかく息を合わせなければ前進しない。一度舟に乗ったら全員がひとつになる。これを中国語で「同舟共済」の精神というそうだ。ドラゴンボートはこの精神とともに中国で数千年間受け継がれてきている。中国は早期から農業文明が発達し、協力、共同を大切なものとしてきた。「同舟共済」はこの流れをくんでいるものだろうし、現在の中国の社会主義の根源、そして国民性の素であるかもしれない。4か月間ドラゴンボートを真面目に取り組んだが、果たして「同舟共済」を、辞書に載っている文字をなぞるのではなく、本当に「理解」したかと問われれば、なんとなくわかったような気はするがはっきりハイとは言えない。国家ごとに長い時間をかけて作り上げられた精神は奥が深いものだ。 

 余談だが、大会では3位以内入賞すれば選手1人1人にメダルが配られるので、次に上海に行く人はぜひメダルを持って帰ってきてほしい。

図12-17.png

 

(4)上海海洋大の研究室

 上海海洋大の功能性食品研究室では、卒論とは別のテーマの研究を行った。このテーマも東京の研究室との共同研究である。ここで行ったのは、研究に必要な特殊なサンプルの製造である。前例のない製品を、要件を満たすように試行錯誤しながら製造するという課題は、修士研究とは異なる視点のものであり、またメーカーの仕事の様でおもしろい。研究というよりは、インターンシップに近いかもしれない。東京海洋大にも吉田ステーションに食品工場があるが、上海海洋大には国家レベルの食品製造施設があり、床面積は吉田の5倍以上はあり、東京海洋大では作れないような製品も製造できるのだ(図18)。

上海海洋大では、チューターは入学直後しかいないので、功能性食品研究室の学生にはいろいろお世話になった(図19)。コーディネーターと連携をとってもらったり、寮のオバちゃんは英語を話さないので通訳をしてもらったり、もちろん一緒に出掛けたりもした。次に向こうの学生が東京の研究室に来たときはしっかりおもてなししようと思う。

図19.png

(5)上海海洋大

 上海海洋大の立地を見て、不便だと思う人もいると思うが、住めば都だ(図20~27)。空気は市街地よりきれいだし(これは本当に大事)、周辺地域はのんびりしている。そのせいか、のんびりした雰囲気の学生が多い。スポーツ施設も広々充実していてしかも使い放題で、市街地の大学とは別の良さがある。寮と教室が離れているのは体力でカバーすれば良いし、市街地に出かけたいなら早起きすればいいだけの話だ。脇の運河には上海蟹が巣穴を堀り、夏になると学校前にスイカを積んだトラックがやってきてオジちゃんがたたき売りしている、そんな牧歌的な風景の広がる上海海洋大は何だかんだで住み心地が良い。

図20-27.png

12.おわりに

 まず、ここまで読んでいただいた方には感謝申し上げる。オケアヌス参加を検討している人向けの資料ということでちょっとイジワルし、生活の不便さが分かる資料を前に持ってきて、留学して良かったことを後ろにした。

留学はトラブルの連続だ。中には、この資料の途中まで読んで、「こんなに不便なら行くのやめよう」と思った人もいたかもしれないが、目次にないこのページまで読み進めたあなたは、「不便さ、トラブルがあることは覚悟できていて、それ以上に海外でやりたいことがあるんだ」という思いがあるはず。そんなあなたはまさに留学すべき人であるに違いない。ぜひOQEANOUSに応募してほしい。

さて、出来事を並べただけの文章が続いたが、もちろん留学中に考えたこと、感じたことは山ほどある。政治体制が違う国の中で、名前だけしか知らないような国の人たちに囲まれて、中国語が全くできないところを中国人学生や他の留学生に助けてもらいながらの生活で、これはすごいと思ったことも、これはおかしいんじゃないかとか、こうあるべきだと思ったこともたくさんある。そのおかげで、日本全体や、私の今までの生き方や思考を別の視点で振り返ることもできた。ここでそれらを具体的に書くと論争になるので伏せておくが、ぜひ留学して、あなた自身が現地でいろいろなことを考えて、感じてほしい。

修士まで行く人は学部と院、合わせて6年間を同じ場所で過ごすことになるのだが、小1から小6までの6年間と、B1からM2までの6年間を比べれば、どうしても大学の6年間の方が単調なものになってしまう。だからこそ、このタイミングで単調な生活を破り、慣れた日本での生活から離れ(ついでにネット規制で日本関連の情報量も最小限に絞り)、祖国と自分を振り返ってみないと勿体ない。一番不安なのは出国するまでの間だ。いざ留学生活が始まってしまえばトラブルに見舞われつつも結局は何とかなるものだ。お金と単位はOQEANOUSがどうにかしてくれるから、少しでも留学に興味がある人、今までの大学生活に単調さを感じていた人は、考えるより先に手を動かしてとりあえず申込書を提出してしまおう!それでは行ってらっしゃい!!

★謝辞

 私を暖かく迎えてくださった上海海洋大学の皆様、諸施設、研究室の皆様、また留学を強力にサポートしてくださった東京海洋大学の皆様に感謝申し上げます。

★おことわり

 この資料の全範囲について無断で転載、複製、引用することを禁止します。この資料はあくまで2019年9月時点の情報であり、この資料を参考にして渡航した結果生じたトラブルの責任は負いません。