Master’s Course 博士前期課程

食品衛生化学 Food Hygienic Chemistry←各研究室HPアイコン

研究室スタッフ 専攻分野:食品保全機能学

教授
黒瀬 光一KUROSE,Kouichi
研究テーマ
アレルゲン性試験法の開発
キーワード
食物アレルギー、薬物(化学物質)アレルギー
准教授
嶋倉 邦嘉SHIMAKURA,Kuniyoshi
研究テーマ
魚貝類およびアニサキスアレルゲンに関する研究: 同定、生化学的および免疫化学的特性の解明、低アレルゲン化、検出および定量方法の開発に関する研究など
キーワード
魚貝類アレルゲン、アニサキスアレレルゲン

研究室内容

我々は食物を毎日摂取しなければ生きていくことはできません。それゆえ、食の安全に関しては、多くの人々が高い関心を持っています。人類は長い歴史の中で、食の安全を確立してきましたが、現在の食を取り巻く環境はめまぐるしく変化しています。とりわけ食物アレルギーは、有病率が高く近年増加傾向にあり、また、生活の質の低下を引き起こし、時として死に至るほどの重篤な症状を呈するなど、大きな社会問題となっています。
食物アレルギーの作用機序は、多くの場合は典型的なⅠ型アレルギーで、患者さんはアレルギーの諸症状を誘発する際の引き金になる原因物質(アレルゲン、たいていの場合ではその本体はタンパク質)に対する特異的な抗体(IgE)を保有しています。我々の研究室は医療機関ではありませんが、アレルギー問題への対処には、原因物質に軸足を置く立場の研究も重要です。日本のように魚介類を多く消費する国々では、魚介類に対するアレルギーに悩まされている方の数は少なくありません。したがって、魚介類をターゲットとしたアレルゲンに関する研究は、食品衛生上の大切な課題のひとつです。当研究室では、魚、甲殻類、軟体動物などに加え、魚介類の寄生虫であるアニサキスのアレルゲンについても研究を行なっています。
食物アレルギーの根本的な治療法は現在のところ確立されていませんが、アレルゲン含有食物を摂取しなければ食物アレルギーは発症しません。したがって、食物アレルギーの予防には、食物のアレルゲン性を判定し、アレルゲン性の高い食物を摂取しないことも重要です。しかし、既存の試験法(ELISA法やイムノブロット法などのin vitro試験、あるいは、皮膚テストや食物負荷試験などのin vivo試験)は、既にアレルゲンに感作された患者さんに対するアレルゲン性しか調べることができません。つまり、従来の試験法では新たな物質に対するアレルゲン性を予知することは不可能です。また、動物を用いた抗原性試験はヒトへの外挿性に乏しく、ヒトに対するアレルゲン性を必ずしも予測することはできません。現在我々は、低分子化合物やタンパク質のアレルゲン性を予測可能な新規試験法の開発を行っています。

■医薬品などの低分子化合物のアレルゲン性に対する新規評価系の構築
食物アレルギーでは多くの場合、食物そのものに由来するタンパク質(の一部)がアレルゲンとなり、アレルギーを発症します。しかし、食品中にはタンパク質のような高分子化合物ばかりではなく、様々な低分子化合物が含まれています。また、多くの医薬品は低分子化合物です。低分子化合物は分子量の小さいことから通常は抗原とはなりませんが,生体内タンパク等の高分子化合物と結合することにより抗原性(アレルゲン性)を獲得する場合があります。このようなケースとしてよく知られている例に薬物アレルギーやアレルギー性接触皮膚炎などがあります。食品に関しては食品添加物、残留農薬、動物(水産動物)用医薬品などの低分子化合物のアレルゲン性が対象となります。我々は,免疫担当細胞由来のヒト培養細胞を用いて、アレルゲン性の有無を予測することが可能なシステムの開発を行っています。
■食物のアレルゲン性に対する新規評価系の構築
アレルギー応答初期の感作段階に着目し、樹状細胞の活性化を指標として、食物に含まれる潜在的アレルギー物質のアレルゲン性を評価することが可能な試験法の開発を行っています。
■アレルゲンの精製および同定に関する研究
ある食物にアレルゲンが一種類しかないとは限りません。イムノブロッティングを行なってみると複数のタンパク質にIgE陽性反応を示す方もいらっしゃいますが、中には既知のアレルゲンとは異なる分子量のタンパク質に反応が認められることがあります。魚介類の抽出液から各種クロマトグラフィーを使って、未知のアレルゲンの精製にチャレンジします。精製したアレルゲンの部分アミノ酸配列を解析してデーターベース上で照合したり、その配列を基に設計したプラーマーを用いた遺伝子工学的手法によりアレルゲンをコードする遺伝子を見出し、その配列を演繹してアミノ酸の全一次構造を明らかにすることなどによって、アレルゲンが何かを同定します。
■IgE結合エピトープの解明に関する研究
アレルゲンとIgEはランダムに結合するのではなく、アレルゲン分子のどの部位とIgEが結合するのかは決まっています。IgEの結合部位(エピトープ)がどこなのかについて、アレルゲンのアミノ酸配列情報を基にオーバーラップさせて作製した合成ペプチドや、アレルゲンの立体構造予測をもとに表面に露出したアミノ酸残基をターゲットとして、IgE結合エピトープを解明します。
■アレルゲンの交差反応性に関する研究
筋原線維タンパク質の一種であるトロポミオシン(TM)は、甲殻類の主要なアレルゲンです。甲殻類のTMを認識する患者さんのIgEが、軟体動物のTMに対しても陽性反応を示すことがあります。このような交差反応性はTMのIgE結合エピトープの類似性に因るものなのでしょうけれども、まだ十分に説明し切れない状況にあります。この点について、科学的なアプローチを進めます。
■新規アレルゲンの諸性状解明に関する研究
クルマエビ科のエビ類の筋形質カルシウム結合性タンパク質や、ある種の貝からパラミオシン、その他アニサキスからも数種類のタンパク質などが、当研究室の既往の研究によって新たにアレルゲンとして同定されました。IgEエピトープの解明や他の生物種における交差反応性などの免疫学的性状の他にも、消化酵素に対する耐性や、温度やpHを変化させたときのアレルゲン性に及ぼす影響などの各種化学的性状を調べます。
■低アレルゲン化
食物から効率よくアレルゲンを除去したりアレルゲンを抗原抗体反応が起きないように変性させることができれば、低アレルゲン化食品の開発につながります。今のところ、エキス製品製造時にプロテアーゼ処理が有効であることが判っていますが、この他にもアレルゲン性を低下させるための有効な加工手段は考えられないでしょうか。アレルゲンの諸性状を調べながら、患者さんにとっても安全な魚介類加工品の創出に向けて基礎データーを集積します。
■アニサキスアレルゲンの二次元電気泳動上のマッピングなど
魚アレルギーと自己診断している患者さんの中には、魚ではなく寄生虫であるアニサキス由来の成分に対するIgEを保有されているケースがあります。アニサキスのアレルゲンは現在10種類以上が同定されていますが、患者さんによってアレルゲンの数や種類に多様性が認められます。二次元電気泳動とイムノブロッティングの組み合わせによる一括検出システム構築のために、アニサキス抽出液の電気泳動の結果より得られたバンドと各アレルゲンの帰属を行います。
  • ジェネティックアナライザー
    遺伝子配列を決めるための解析装置
  • イムノブロッティングの一例
    アレルゲンの分子量と数の解析
  • ペプチドシンセサイザー
    IgE結合エピトープ解析に威力を発揮
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